認知機能の改善の可能性? 高齢者施設でも取り入れられるeスポーツ
近年ビデオゲームを使った対戦を競技として捉え、真剣に競い合うeスポーツが注目を集めています。
eスポーツの競技人口はアマチュアまで含めると全世界で1億3,000万人を超えるとされており、アメリカや中国をはじめとするeスポーツを積極的に取り入れる国々では毎年のように国際的な大会が開催されています。
国内でも日本人プレイヤーが国際的な大会で活躍を見せたことや、国際大会が開催されることで徐々に認知を広げ、eスポーツをけん引する諸外国を追いかけるかたちで大きな盛り上がりを見せています。
参考元:北海道ニュースUHB「賞金総額3億円以上 5日間で延べ3万人集客 「eスポーツ」の世界大会が札幌市で開幕 市長は“聖地”に ファンをターゲットにしたホテルも…6億5000万円超の赤字を抱えるドームの起爆剤となるか」
参考元:共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運営する株式会社ロイヤリティ マーケティングが実施した「10代から60代に聞いたeスポーツに関する調査」
ビデオゲームに真剣に取り組む競技ということで青年層を中心に関心の高まっているeスポーツですが、近年では認知機能の改善や介護予防効果が期待できるとして高齢者向けにeスポーツを採用する事例が増えていることはご存知でしょうか?
本稿では認知機能改善や介護予防への新たなアプローチとして期待されるeスポーツの実証事例と共に、高齢者でも挑戦しやすいeスポーツタイトルをご紹介します。
高齢者を対象とした検証実験
日本ではこの10年ほどで一気に認知度を拡大していったeスポーツは現在、青年層を中心に関心を集め、さらなる発展が期待される大きな市場へと発展しました。
eスポーツへの関心は年々高まっており、2025年1月に大和ハウスプレミストドーム(旧:札幌ドーム)で開催された人気オンラインゲーム『Apex Legends』の世界大会の様子からもその盛り上がりが見て取れます。
このように若者を中心に盛り上がりを見せるeスポーツですが、近年では高齢者の介護予防への新たなアプローチとして期待され、さまざまな地方自治体、団体による取り組みや実証実験が進められています。
2022年に奈良県磯城郡川西町で3か月にわたって実施された実証実験では、65〜75歳のアクティブシニア層14名を対象にスポーツクラブの一環としてビデオゲームを用いた教室を行たところ、認知機能改善への効果が見られました。
特に認知機能の改善が見られたのは「軽度認知障害」という軽い忘れ物や考えるスピードが落ちた状態の参加者で、軽度認知障害の疑いのあった6名のうち5名に回復したと報告されています。
また、2023年に宮城県仙台市青葉区でも「台原老人福祉センター」に通う60代以上の男女21名にレーシングゲームや格闘ゲームを5か月にわたり定期的にプレイしてもらった実証実験でも、注意分割機能の向上が見られました。
実証実験後のアンケートでは改善した人のうち4名は介護予防が必要な「フレイル」の状態から一歩手前となる「プレフレイル」状態への改善が見られたと報告されています。
改善には個人差があるものの、この2件の実証実験では改善がみられており、経験の薄いビデオゲームに挑戦するにあたり、さまざまなな状況を判断しながらプレイしたり、上達するために参加者同士が互いにフラットな状態でコミュニケーションを取りながら試行錯誤したことが改善につながったのではないかと考えられています。
シニアeスポーツプロチームも誕生
青年層を中心とした盛り上がりだけでなく介護予防効果も期待されるeスポーツですが、機能改善・予防に留まらず高齢者が本格的にeスポーツへの参入する事例も生まれています。
スウェーデンでは2017年から高齢者のみで構成されたeスポーツチーム「Silver Snipers」が人気FPSタイトル『Counter-Strike 2(発足時はCounter-Strike: Global Offensive)』を舞台に活動しています。
公式サイトによれば「Silver Snipers」は本稿執筆時点で65歳から82歳の男女5名で構成されており、チーム平均年齢は72歳。
2017年に同国で実施された大型ゲームイベント『Dreamhack Winter 2017』内のトーナメント出場を目標に発足された同チームですが、イベント以降も活動を続けており2019年にはシニア大会で優勝を飾っています。
「Silver Snipers」公式サイト:https://lenovo-silversnipers.com/#home-section
参考:電ファミニコゲーマー「平均年齢67歳のプロゲーマーチームの挑戦。スウェーデン発のシニアeスポーツ選手たちが反射神経必須のFPSで世界の頂点を目指す」
海外では10年近くも前から高齢者の参入が見られたeスポーツですが、日本国内でも2021年にはeスポーツチーム「MATAGI SNIPERS(マタギスナイパーズ)」が発足し、活動を続けています。
引用:「MATAGI SNIPERS」公式サイト:https://matagi-snps.com/
2020年にリリースされたFPSタイトル『VALORANT』を主戦場とする同チームは60歳以上のプレイヤー11名で構成(うち6名はアカデミー選手)されており、日々練習を重ねています。
2024年には練習の様子が『VALORANT』プレイヤーの目に留まり、「孫にも一目置かれる存在」をスローガンに劣らない真剣な姿勢と、その上達した姿に多くの反応が寄せられました。
「MATAGI SNIPERS」公式サイト:https://matagi-snps.com/
「MATAGI SNIPERS」公式Twitch:https://www.twitch.tv/matagisnipers
高齢者でも挑戦できる&実績のあるeスポーツタイトル
高齢者だけで構成されたeスポーツチームの参入や、介護予防としての採用も検討されるeスポーツ。本項では高齢者でも挑戦しやすいeスポーツタイトルをご紹介します。
太鼓の達人
バンダイナムコエンターテインメントが展開する「太鼓の達人」は和太鼓をモチーフとしたリズムゲームです。
画面に流れるマークに合わせて太鼓の面とふちのどちらかを叩くシンプルなゲーム性が特徴です。
シンプルなゲーム性に加え複数の難易度や対戦モードも用意されているため、誰かと競いあったり上達したら次の難易度に挑戦と繰り返しプレイできます。
また比較的プレイ環境が整えやすいことから、高齢者向けのイベントや実証実験での採用事例も多く確認されています。
公式サイト:https://taiko-ch.net/index.php
ぷよぷよ
セガが展開する「ぷよぷよ」は1991年から続く落ちものパズルジャンルの定番タイトルです。
本シリーズは2つ1組で落ちてくるぷよぷよを順番に配置し、同じ色が4つ以上つながると消えるというシンプルさと、消した後に落ちてくるぷよぷよの位置を予測して次につなげる連鎖などの奥深さが特徴。
ゲームセンターでの対戦で大きな注目を集めた同シリーズは現在でも対戦タイトルとして根強い人気を誇り、大会なども多く開催されています。
4つ繋げて消すというゲームの根本のシンプルさと、次に落ちてくるぷよぷよや消した後の移を予測する奥深いシステムは、反応速度だけでなく先のことを考える頭の体操にも向いているため、高齢者向けのイベントでの採用事例が確認されています。
グランツーリスモ
ソニー・インタラクティブエンタテインメントが展開する『グランツーリスモ』は1997年にリリースされ、現在もシリーズが続くドライビング&カーライフシミュレーターです。
レースゲームとしての要素が強い本作ですが、スポーツカー以外にも往年のクラシックカーや現役の車種など
高齢者の方々が乗っていた、または憧れていた車も選択でき、ハンドルコントローラーを用いたプレイは実際の車に乗っているような感覚も得られるため、免許を返納した高齢者にも人気のタイトルです。
VALORANT
Riot Gamesが展開する『VALORANT』は2020年にリリースされたシューティングゲームです。
青年層を中心に大きな盛り上がりを見せる本作は、味方と協力してどのように攻めて、守るのかという戦略性の高さが特徴的です。
シューティングゲームジャンルでは古くから親しまれてきた攻撃側と防衛側に分かれて5対5の2チームで戦うタクティカルシューターに、キャラクター要素を組み合わせたゲーム性で大きな注目を集めました。
プレイするための環境作りのハードルの高さから高齢者向けのイベントや実証実験での採用事例は少ないものの、「MATAGI SNIPERS」の活躍により注目が高まっており、本格的なeスポーツをやってみたい高齢者に挑戦向けのタイトルになります。
まとめ
日本のみならず世界的にも青年層から高い関心を集めるeスポーツは、近年高齢者の認知機能の改善や介護予防の新たな手段として注目されています。
さまざまな団体による実証実験も増えており、eスポーツがどのように高齢者の身体に作用するのか少しづつではあるものの研究・考察が進んでいます。
高齢化の進む日本において、eスポーツが高齢者の未来にどう作用するのか、この新たなアプローチに関心を向けてみてはいかがでしょうか。
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