SOMPOダイレクトがマタギスナイパーズに協賛を行い、JCGがサポートしました。なぜ高齢者向けeスポーツが世の中で注目されるのか、その最先端の事例を追います。
協賛リリース記事:『SOMPOダイレクト』とのパートナーシップ契約締結のお知らせ
少子高齢化が進む日本において、地域活性化や健康促進を目的とした高齢者向けの取り組みが増えています。その中でも、秋田県で発足した「マタギスナイパーズ」は、高齢者が本格的にeスポーツに挑戦するユニークな事例です。単なる趣味の域を超え、年齢に関係なく一心に競技シーンに真剣に取り組むチームの成長と、その背景にある現在に至るまでの苦労や成果は何か。
今回はこの革新的な取り組みを牽引する土門悠氏に、チーム発足の経緯から現在の活動、そして今後の展望について話を伺いました。
株式会社JCG CMO 豊後 祐紀(以下、豊後)
まずは、マタギスナイパーズさんが結成することになった理由をお聞かせください。
株式会社エスツー 土門 悠氏(以下、土門氏)
はい。我々がいる秋田県は少子高齢化がものすごく著しい地域です。もちろん日本全体の問題ではあるのですが、47都道府県で見たときに最も顕著で人口減少も加速しています。出生数も、昨年は4000人を切っていて、約30年で1/3にまで減少しています。
そんな中で、まず我々の強みであるITの力でそこを解決できないかと考えました。
元々eスポーツにも興味があり、まず最初に秋田ライジングウォーズという若年層のチームを作りました。
そしてその後、高齢者が非常に多い秋田県で、若い人がやるものと思われているeスポーツをやってみたら面白いんじゃないかと思ったのが発足のきっかけです。
コロナ禍でもあった2020年に動き始めて、翌年の2021年にチームが発足しました。
豊後
ありがとうございます。少子高齢化問題も発足の一因となったのですね。
土門氏
そうですね。先ほどお伝えした通り少子高齢化の著しい秋田県で、そこを逆手に取ってポジティブな解釈ができるように、という思いがありますね。
豊後
なるほど。チーム発足時、どのようにメンバーを募集したのでしょうか?
土門氏
まずはプレスリリースを出したところ、地元のメディアであるテレビ局や新聞などに取り上げていただきました。
40名ぐらいの応募をいただいて、最終的に15名で活動をスタートしました。
豊後
すごい応募数ですね!15名はどのように選ばれたのでしょうか?
土門氏
はい、応募者40名に対して説明会を行い、詳しい活動内容や練習時間などをお伝えしていく中で実際に活動できると決断していただいたのが15名、という経緯です。
豊後
馴染みがないからこそ、活動内容も一から説明が必要ですもんね。
現在はチーム結成から2年が経過しています。応募者も増加していると思いますが、発足時から変わったことなどはありますか?
土門氏
そうですね。
良くも悪くも高齢者のeスポーツチームなので、「健康促進」や「ボケ防止」などといった側面が強く出てしまっていたんですよね。
しかし、チームはそれを目的としているわけではないんです。競技シーンに対して本気で立ち向かっています。強さはもちろんですし、勝ちにこだわる姿勢を前面に出していっています。
練習時間であれば、週5で13時から17時の参加をマストとしています。少し厳しいかもしれませんが、そこに参加ができない方は活動はできませんという方針を選手たちに出しました。また、エイム力をどうやって伸ばすか考えたり、それぞれの選手の成績を数値化するなどして日々改善するために練習をしています。それぐらい本気で競技シーンに向き合っています。
世間の方がどう見るかは自由ですが、我々は「これは脳にいいよね」とか「ボケ防止になるよね」とかそういう形で活動はしていないですね。
豊後
お話を聞いている限りだと、プロeスポーツチームと同じレベルで練習していますよね。普段はオンラインでの練習がメインですか?
土門氏
はい、監督もついていますし、切磋琢磨しながら日々練習しています。
練習は基本的にオンラインでやっていますね。ただ、一番最初はマウスやキーボードの使い方から教えていたのでオフラインの時期もありました。
豊後
なるほど。設立当初、1番苦労されたポイントはなんでしょうか?
土門氏
まずはパソコンの使い方もそうですし、ITリテラシーの部分も一からお伝えしたのですが、そもそもITリテラシーってなんですか?という感じでしたね。共通言語がなかったので、そこに苦労しました。
その後それぞれが不自由なく操作ができるようになってくると、自由に動きすぎてしまうので統率が取れなくなってしまいました。例えば、全体練習の時に「ここに集まってください」と伝えても勝手に一人で行っちゃったりとか。笑
そこを今はクリアして、みんなで集まってしっかり戦えるようになりました。
豊後
そんな裏話があったんですね!笑
たとえばmark25選手の、エイムバッチリで敵を倒した!みたいなシーンが今はXで結構流れてきますよね。彼はそういうリテラシーを最初から持っていたのでしょうか?
土門氏
彼はパソコンそのものには詳しかったですが、ゲーム経験はほとんどありませんでした。逆にNAGI選手は携帯ゲームはしていましたがパソコンに触れたことないなど、選手によって背景は様々ですね。
豊後
なるほど。今はトップチームとアカデミーで分けられていると思うのですが、トップチームに上がれる基準などはあるのでしょうか?
土門氏
そうですね、れもんともう一人外部コーチがいるのですが、彼ら2人で話し合って段階的に基準を決めています。
アカデミーから上がれそうな選手はトップチームの練習に参加させてみてそれぞれのスキルを見たりしていますが、やはりアカデミーの選手はトップチームと比べると、能力に差があるんですよね。ただ、そこが感覚にならないように、数値化してほしいというのは僕の方から監督に指示しています。
例えば野球とかでも打率や打点、防御率とかあるじゃないですか。選手自身も納得した上で判断ができるようにする必要があります。
例えば反応速度判定はパッと出たときに、それに対してどのくらいでクリックできるかという数値です。NAGI選手はかなりいい数字が出てるので、アカデミーと比べるとやはりトップチームの方が技術が上というのは分かりやすいですね。もちろん数字だけじゃない部分もありますが、ある程度の指標となっていると考えています。
豊後
プロチームとほとんど変わらないですね。
一つ気になるところがあって、監督と選手の接し方はどんな感じなんでしょうか。実際、自分の息子世代、孫世代から、注意を受けたり指示されることもあるじゃないですか。そのあたりの関係性が気になります。
土門氏
そうですね。もちろん多少のハードルはあるとは思いますが・・・。これは監督のいいところではあるんですけど、高齢者だからといって全く遠慮しないんですよね。また、選手自身もその分野に関しては知識レベルが違うのを理解しているので、確かに自分の息子世代にはなりますけど、純粋に教えを請うという関係性ではありますね。
たまにトラブルもありますが、それは年齢が離れているからとは一切関係なく一般的なものだと思います。
例えば監督が言ったことができていないという問題があったとして、技術的にできないのか、あるいはやろうとしていないだけなのか、とか。
技術的にできないのであればそれは練習を重ねればいいのですが、しようとしない場合は、やっぱり監督は怒りますよね。なので、別に世代は関係ないと思います。
前提として、先ほど伝えた通りお互いにリスペクトがあるからだとは思いますが。
豊後
そこまでストイックに練習ができている、選手たちのモチベーションや原動力ってなんだと思いますか?
土門氏
やはり最初はみんな興味から入っているので、「面白そう!」「新しいことをやってみたい!」というところから始まっていたのですが、今はだんだん「勝ちたい!」「大会でいい成績を残したい!」等に変わってきています。
最近は配信などのオンライン上でファンの方と接する機会があるので、そこでの応援は彼らの力になっているようですね。こんなに自分たちのことを応援してくれる人がいるんだ!という実感に繋がっていて温かいコメントをくださる方々には感謝しています。
皆さん優しくて、「このシーンの、こういう所がうまかったですね」みたいな技術的な部分のコメントをいただくこともありますし、「今日は寒かったね」とかの日常会話をしてくださる方もいます。FPSだとSNS上では厳しいコメントが多い傾向にあるかと思うのですが、そういうものは著しく少ないなとは感じますね。
豊後
応援してくださる方の年齢層はどのあたりなのでしょうか?
土門氏
データ上では10代後半から20代前半がボリュームゾーンですね。
豊後
そうなんですね!若い世代に自分のファンがいると思うと、嬉しいですよね。
ここまでお話を伺ってきたのですが、高齢者eスポーツチームの先駆者として活動されている中で、現代の日本において、高齢者eスポーツは馴染んでくると思いますか?
土門氏
そうですね。世間一般のイメージもそうですし高齢者自身が抱いてるイメージも同じだと思うんですけど、仕事を引退した後何をするか考えた時大体が趣味をやろうかな?となると思うんです。ゴルフであったりとか、手芸とか、いろいろあるとは思うんですけど、あくまで「趣味」なんですよね。
それをどこまで突き詰めるか、どのぐらいの時間をかけるかと言ったら、今までの仕事以上なり得ないものだとは思っていて。
対して、今活動している選手を見ていると、趣味の域を超えてきています。仕事並みに時間を費やしていますし、上達したいという本気度が垣間見えます。そうなるとeスポーツ自体が生きがいとかそういうものになってきていて、すごく生き生きとしていますし、若さに溢れているなあと本当に思います。
高齢者の中でも趣味に留まるだけだと物足りないと感じられている方とかもいると思うので、そういう方たちに対してオンライン上で年齢・性別・社会的背景も全く関係なくできるeスポーツは刺さると思いますし、そういう未来を作っていきたいです。こう言った部分はフィジカルのスポーツでは叶えられないですよね。
豊後
おっしゃる通りですね。ここまで取り組まれてきて感じる意義や成果はどんな部分でしょうか?
土門氏
これは数字では表しづらいところですが、絶対にボケないですね。ボケる暇なんてないだろうなと思います。笑
また、先ほども言いましたが生き生きと日々過ごしているなというのは感じますね。
本気で悔しがったりすることって、高齢者でなくても今の時代少なくなっていると思うんですよね。ゲームをプレイすることで、悔しい・怒る・落ち込むとか、感情表現がより豊かになりますね。あとは特に配信を始めてからは、プレイしながら喋らないといけないですし、Valorantもチームで会話しないと成り立たないゲームなので、だんだんそこも活性化してきています。
最近筋トレをすることがゲームのプレイにも影響するという発表もあったので、それは選手たちにも伝えています。全ての資本になるのは健康な体ですしね。さらに生活時間のサイクルは健康的になっています。練習時間も決まっているので規則正しく毎日過ごしているんだろうなとは思っています。
豊後
運動とか健康とかは、逆に私たちも見習わないといけない部分かもしれないですね。
先ほどと少し似ている質問なのですが、eスポーツが高齢者に馴染むために必要なことってなんだと思いますか?
土門氏
そうですね。
特に日本では顕著なのかもしれないですが、ゲームに対する偏見はどうしてもあるのかなと思います。
子供がやりすぎて勉強しないとか、目が悪くなるとか、そういう部分はもちろん間違いではないかもしれないのですが、物事に対して一生懸命に取り組むというのは、ゲームであろうがどんなスポーツであろうが、変わらないと思うので、ゲームだからダメとか、そういった偏見が少しでもなくなったらいいなと思います。
じゃあそれをどうやるかと言ったら、日本のトッププレイヤーの方たちが、練習風景や本気で真面目に取り組んでいる部分を発信したりするとかも効果的なのかなとは思います。
うちの選手は彼ら自身が子供に「ゲームしすぎはダメだ」と言っていた立場なんですよね。それが今はやりすぎなぐらいやってるので、本人たちの考え方も変わってきてはいます。昔はゲームは悪だと思っていたけど、実際に自分で体験してみたら、本気で取り組むのって大事だし、取り組めることがあるのは素敵なことだな、と。
今生きている人たちがしっかり下に伝えていくことで、どんどんそういう偏見ってなくなっていくんだろうなと思うので、息子世代、孫世代に伝えていってほしいなと思いますし。
深夜までゲームをやって寝不足になって次の日学校に行けなくなった〜とか、そういうのは、ルールを守らないことがダメなわけであって、ゲームが悪いわけじゃないんですよね。
仮にそれが野球だったとしたら、深夜2時まで素振りやってて、次の日試合に行けなくなったとかと同じだと思うんです。
ゲームだけが偏見を受けるのは違うと思いますし、変えていかないといけないですね。
豊後
そうですよね。最後に、今後の展望をお聞きしても良いでしょうか?また、業界に期待することなどもあればお聞かせください。
土門氏
そうですね、高齢者のみの大会を開催していただけるとすごいありがたいなと思います。もちろん監督もチームとしても、年齢関係なく、若者を相手にしても勝てるようなチームを目指してはいるのですが、やっぱり選手たちもまあまあボコボコにされるわけですよ。なので、「高齢者の中であれば負けない」みたいな自信になったり、同年代には負けたくないという気持ちにもつながるのかなと思います。
また、ビジネス的な部分でいくと「マタギスナイパーズ」は一事業として運営しているので、単体での黒字化を目指しています。じゃあどうやって行うのかという部分ではチームの強さは絶対的に必要なところなので、選手には強くなるために一生懸命練習してほしいですし、大会等に出てメディアに露出していくことなども行っていきたいと思ってます。
豊後
1番のファンとして、応援しています!
本日はありがとうございました。
JCGではマタギスナイパーズ様とタッグを組むだけでなく、ゲームと高齢者をかけ合わせた事業も展開しております。気になる方はぜひ弊社お問い合わせまでご相談くださいませ。